小林恭二「心中への招待状」文春新書(2005年) ISBN:4166604848

 古来人口に膾炙してきた「曾根崎心中」。実際の心中と近松門左衛門の創作、後世の改作を丹念に辿り、ロミオとジュリエットとの比較も交えながら、日本人の心に「心中」を焼き付けることとなったこの事件を多角的に分析する。著者は、本来の心中は崇高な愛の究極の実現の姿であって、決して貧窮困難から逃れる為の複数人の自殺ではないと看破している。即ち一家心中や無理心中、ましてやネット心中などとは無縁の世界だという。
 将来にわたって相手の愛を独占するために二人で同時に生を絶つ。一つの理想型ではあると思うが、二人で出会い作り上げていく未来をも絶ってしまうことには抵抗も感じる。そんな私には「心中」はできないのでしょうなぁ。