寛政五年(1793年)
石巻を出港して遭難、ロシアに漂着した「若宮丸」の乗組員たち。彼らが世界一周の末に文化元年(1804年)に帰着するまでの数奇な運命を、当時の記録すなわち漂流記を元に再現した本。著者は「漂流記は日本独自の海洋文学」であると位置づけ、その価値を高く評価している。確かに文学には創作のものばかりでなく
記録文学という分野もあり、そのいずれが優れているというものではない。生と死、厳しい風土での生活、異国人や同胞との交流と葛藤など、事実の中から生み出された言葉の重みは伝えようとする力に満ちていると言えよう。「下手な小説を読むより面白い」とは小説家である著者に対して大変失礼な言い方にもなってしまうが、本書を読み終えたワタクシの率直な感想でもあるのだ。