桜が創った「日本」/佐藤俊樹

桜が創った「日本」―ソメイヨシノ 起源への旅 (岩波新書)

桜が創った「日本」―ソメイヨシノ 起源への旅 (岩波新書)

 日本の春を一色に染め上げるソメイヨシノ。桜を愛でる心は愛国心と相俟って日本古来の伝統として受け継がれてきている―― 一般にそう信じられている伝承は、実はせいぜい50〜70年前からのものであった。一説には日本の桜の八割をも占めるというソメイヨシノの普及と人々の言説の移ろいを重層的に捉え、ソメイヨシノがもたらした「日本」の変化を明らかにしている。著者の冷静な視点が浮き彫りにする擬似的伝統意識の成立とその定着には、ある種の怖ろしさを感じてしまった。
 『年年歳歳花相似 歳歳年年人不同』劉庭芝の「代悲白頭翁」という詩の一節があとがきで引用されているが、ワタクシがこの世から消え去っても春になれば桜は街を彩ることでしょう。