生の暴発、死の誘惑/岩波明

精神科医の著者が、臨床例や文学・映画、凶悪犯罪と時代背景を絡めながら、生きにくい現代日本人に向けて放つ文化論・社会論・人生論。自殺、家族の悪弊、飲酒など心の闇に多方向から光を当て探っていく鮮やかな手法と筆致に引き込まれ、一気に読破してしまいました。


精神疾患の患者は、しばしば突発的な旅をする。心理的にも切羽詰まった状況に追い詰められた状態においては、場所を移動すればすべてをリセットできるように感じるものらしい」(本書P228)との指摘があるが、思い当たる節がある。その移動が何の解決にも結びつかないのが辛いところである。