輸入学問の功罪/鈴木直

輸入学問の功罪―この翻訳わかりますか? (ちくま新書)

輸入学問の功罪―この翻訳わかりますか? (ちくま新書)

 哲学・思想の翻訳物はなぜ難解なのか。日本と(日本が手本にした)ドイツの近代化過程を背景に、原文に忠実な逐語訳たらんとする学術書と、読者の理解(それは売り上げにもつながる)を優先しようとする商業的一般書との乖離を描いている。翻訳者の力量、孤立を良しとする学術主義、「外からの近代化」と「上からの近代化」等々、多数の要素がもたらす難解さ。それが日本国民の思想形成にどれほどの停滞をもたらしたかは想像できないが、失われた時間は決して少なくないだろう。
 社会思想が混迷を深める今日、著者の言う「アカデミズムの再構築」はまた必然的なものといえよう。いざ、書を捨て街に出よう。