医療の限界/小松秀樹

医療の限界 (新潮新書)

医療の限界 (新潮新書)

 救急搬送された患者のたらい回しなど、医療荒廃の問題が叫ばれるようになって久しい。本書は臨床医による医療の実態を描いたもの。崩壊をもたらす制度的な欠陥や患者側の理不尽な訴えなど問題点を冷静に列挙しており、抑えた筆致であるにもかかわらず、医療現場の悲鳴も聞こえてくる気がする。「医療は本質的に不確実」との正直な告白には些か戸惑いを覚えるが、システム不備によって引き起こされる医療事故の問題や、そこにおける刑事・民事の免責に係る考えなど、改善の具体的方向性を示しているのは参考になる。こうした施策が一刻も早く実現に向かうことを願わずにはいられない。
 『構造改革』の悪影響によりさまざまな問題が生じた。本書の関係で言えば、市場原理は医療制度に相応しくないとの指摘は正鵠を射るものだと思えてならない。