こんな市名はもういらない!/楠原祐介
こんな市名はもういらない!―歴史的・伝統的地名保存マニュアル
- 作者: 楠原佑介
- 出版社/メーカー: 東京堂出版
- 発売日: 2003/05
- メディア: 単行本
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安易な合成(参互折衷)、より広い地域・別地域の名前の僭称、安易なひらがな化、方位区分や宗教・企業名の採用、外国語の語感に頼っただけのカタカナ地名、さらには選定に際しての「地名公募」「有識者会議」の愚――それらはいずれも伝統的な価値のある地域住民の文化をも蔑ろにし抹殺していくことになる。著者の指摘は至極妥当なものだろう。尤も、本書では「瑞祥地名」は俎上に上っていない。それ以前の問題、という認識なのだろうか。
本書の刊行は2003年。折しも「平成の大合併」が進行中の時期だった。結果的にはその後も、青森県つがる市(木造町、森田村、柏村、稲垣村、車力村が合併)、岩手県奥州市(水沢市、江刺市、前沢町、胆沢町、衣川村が合併)、栃木県さくら市(氏家町、喜連川町が合併)、茨城県小美玉市(小川町、美野里町、玉里村が合併)、群馬県みどり市(笠懸町、大間々町、東村が合併)など悪しき新市名が多数誕生している(これらは一例に過ぎず、ここに記すことに他意はない)。山梨県では甲斐市(竜王町、敷島町、双葉町が合併)と甲州市(塩山市、勝沼町、大和村が合併)が並立し、さらには中央市(玉穂町、田富町、豊富村が合併)などという市名まで誕生した。本書内で著者が整理を期待した伊豆半島に至っては、歴史的地名を安易に捨て去った伊豆市(修善寺町、土肥町、天城湯ヶ島町、中伊豆町が合併)と伊豆の国市(伊豆長岡町、大仁町、韮山町が合併)が生まれた。著者が許容した連呼式でも東村・吾妻町が合併した群馬県「東吾妻町」のような事例があった。全国に現れた「美里町」「美郷町」も問題だろう。
愛知県の「南セントレア市」構想が新市名をめぐり破談になるという良識もまだ残ってはいるものの、一度棄却された地名は次第に顧みられなくなることだろう。
駅名にだけ残る地名の記憶という事態。身近な地名を大切にすることから地域を愛する心も生まれる……というのはやや安直な結論だろうか。